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東京高等裁判所 平成3年(行ケ)236号 判決

和歌山県和歌山市梅原579番地の1

原告

ノーリツ鋼機株式会社

同代表者代表取締役

西本貫一

同訴訟代理人弁理士

大島道男

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 高島章

同指定代理人

関口博

井上元廣

中村友之

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者が求めた裁判

1  原告

「特許庁が昭和63年審判第11392号事件について平成3年8月8日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和55年6月16日、名称を「写真露光装置の操作表示方法およびその装置」(昭和63年3月12日「写真露光装置の表示方法」と補正。)とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願(以下「本願」という。)をしたところ、昭和63年4月22日に拒絶査定を受けたので、同年6月29日に審判を請求し、昭和63年審判11392号事件として審理されていたところ、平成3年8月8日に「本件審判の請求は成り立たない」との審決があり、その謄本は、同年9月4日に原告に送達された。

2  本願発明の要旨

写真露光装置内へのペーパーマスクの装填の有無および装填されているペーパーマスクの種類を検出、判定して一つの表示部に表示せしめ、所要とするペーパーマスクが装填されているか、または装填された場合は、これに続いたスキップスイッチの作動により写真露光装置内へのネガマスクの装填の有無および装填されているネガマスクの種類を検出、判定して前記表示部に表示せしめ、所要とするネガマスクが装填されているか、または装填された場合はこれに続いた再度のスキップスイッチの作動により前記ペーパーマスクの種類とネガマスクの種類とに基づいて予め定められた各種露光条件設定用の露光調節部材の種類、装着位置を、該写真露光装置に既に装填されている露光調節部材の種類、装着位置と異なる場合と露光調節部材が装填されていない場合のみ所定の順に前記表示部に表示せしめ、該写真露光装置に既に装填されているか、または装填された露光調節部材の種類、装着位置と前記定められた露光調節部材の種類、装着位置とがすべて一致した場合は、前記表示部に露光可能という表示をせしめて誤操作を防止し得る如くなしたことを特徴とする写真露光装置の表示方法。

3  審決の理由の要点

(1)  本願発明の要旨は前項記載のとおりである。

(2)〈1〉  写真露光装置は、複数のペーパーマスクと複数のネガマスクと各種露光条件設定用の露光調節部材等の組合わせにより構成され、その取扱いは、ペーパーマスクの装填の有無、装填されているペーパーマスクの種類、ネガマスクの装填の有無、装填されているネガマスクの種類をそれぞれ「確認」し、所要とするペーパーマスクとネガマスクとが装填されておらず別のものが装填されているときには、別のものを取り外して、所要とするペーパーマスクとネガマスクの装填を行ない、所要とするペーパーマスクの種類とネガマスクの種類とに基づいて各種露光条件設定用の露光調節部材の種類とその装着位置とが定まる関係にあることから、ペーパーマスクの種類とネガマスクの種類に応じた露光調節部材の種類・装着位置を、写真露光調節装置に既に装填されている露光調節部材の種類・装着位置と異なっていないかどうかを「確認」し、また露光調節部材が装填されていないことはないかを「確認」し、さらに装着された露光調節部材の種類・装着位置が所要とするペーパーマスクの種類とネガマスクの種類とから定まる露光調節部材の種類・装着位置と一致した場合は露光可能と「確認」する等の手順をとることは、写真露光装置の性質上明らかであってこれらのことは「写真露光装置において従来周知の事項」である。

〈2〉  本願発明は、上記「写真露光装置における従来周知の事項」における「確認」事項を表示部に表示すること表示内容を順序ごとに一つの表示部で表示すること、ペーパーマスクとネガマスクの装填の有無及びペーパーマスクの種類とネガマスクの種類とを検出、判定すること所要とするペーパーマスクが装填されているか又は装填された場合と、所要とするネガマスクが装填されているか又は装填された場合とに、スキップスイッチを作動させることに特徴を有するものと認められる。

〈3〉  しかしながら、写真露光装置(複写機)を露光可能とするに足る構成部材(複写用紙、トナー、原稿台、カセット等)の装填の有無や適正な位置を検出・判定し、装填の有無等や露光可能を表示することは、例えば、特開昭55-50255号公報(以下「第1引用例」という。)記載の如く公知技術であること、また写真露光装置(複写機)に装填されている構成部材(カセット)の種類(サイズ)を検出、判定して表示部に表示させることは、同じく実願昭52-14722号(実開昭53-109443号)のマイクロフィルム(以下「第2引用例」という。)に記載の如く公知技術であること、さらに、「確認」事項を表示部に表示したり、表示内容を表示順に表示させたり、所定の事項の「確認」後に次の動作を行なわせるためにスキップスイッチを作動させることは本出願前日常生活においてよく経験する周知技術〔例えば、現金自動支払機(特開昭53-41959号公報、特開昭53-40592号公報参照。)〕であること、さらにまた、多数の表示内容を一つの表示部に表示させることも周知技術(例えば、デジタル腕時計等)である。

(3)  そうしてみると、このような公知ないし周知技術の存在のもとにおいては、本願発明は、上記「写真露光装置における従来周知の事項」におけるペーパーマスクやネガマスクの装填の有無及び種類等を表示するにあたり格別特徴を有する構成を問題にするものではないことから上記「写真露光装置における従来周知の事項」における「確認」事項を表示順に一つの表示部に表示させ、またペーパーマスクとネガマスクの装填の有無及びペーパーマスクの種類とネガマスクの種類とを検出・判定し、さらに所要とするペーパーマスクが装填されているか又は装填された場合と、所要とするネガマスクが装填されているか又は装填された場合とにスキップスイッチを作動させることは、第1引用例及び第2引用例の存在並びに周知技術を勘案すると当業者が格別困難なく想到しえたものと認められる。

そして、本願発明の構成による効果は当業者が容易に予測しえた域を超えるものではない。

(4)  したがって、本願発明は、周知技術、第1引用例及び第2引用例に記載されたものに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることはできないものである。

4  審決を取り消すべき事由

(1)  審決の理由の要点(1)、(2)の〈1〉及び〈3〉は認め、(2)の〈2〉は否認し、その余は争う。

(2)  取消事由

〈1〉 相違点についての判断遺脱(取消事由1)

本願発明の要旨のうち、「前記ペーパーマスクの種類とネガマスクの種類とに基づいて予め定められた各種露光条件設定用の露光調節部材の種類、装着位置を、該写真露光装置に既に装填されている露光調節部材の種類、装着位置と異なる場合と露光調節部材が装填されていない場合のみ所定の順に前記表示部に表示せしめる」との構成は、「予め定められた各種露光条件設定用の露光調節部材の種類、装着位置を、該写真露光装置に既に装填されている露光調節部材の種類、装着位置と異なる場合と露光調節部材が装填されていない場合には所定の順に一箇所の表示部に表示せしめる」(特徴1)が、「予め定められた各種露光条件設定用の露光調節部材の種類、装着位置が、該写真露光装置に既に装填されている又は装填された露光調節部材の種類、装着位置と異ならない場合には、予め定められた各種露光条件設定用の露光調節部材の種類、装着位置が、表示部に表示されない」(特徴2)との二面の特徴を有するにもかかわらず、審決は、その認定を誤り、後者の特徴2を看過し、従来周知の事項との相違点の認定を誤った結果、当該相違点についての判断を遺脱した。

〈2〉 周知技術の認定の誤りによる進歩性の判断の誤り(取消事由2)

審決は、多数の表示内容を一つの表示部に表示させることは周知技術であるから、本願発明の「写真露光装置における従来周知の事項」における「確認事項」を表示順に一つの表示部に表示するという構成は第1引用例及び第2引用例の存在並びに周知技術を勘案すると当業者が格別困難なく想到し得たものと認定判断したが、一般的に多数の表示内容を一つの表示部に表示させることは周知技術であっても、本願発明のように、一連の操作内容等を表示順に一箇所の表示部に表示させることは、周知とはいえない。しかるに、審決は、周知技術の認定を誤った結果、本願発明の進歩性についての判断を誤った。

〈3〉 顕著な作用効果の看過(取消事由3)

本願発明の「前記ペーパーマスクの種類とネガマスクの種類とに基づいて予め定められた各種露光条件設定用の露光調節部材の種類、装着位置を、該写真露光装置に既に装填されている露光調節部材の種類、装着位置と異なる場合と露光調節部材が装填されていない場合のみ所定の順に前記表示部に表示せしめる」との構成により、本願発明は、「操作者はこの表示に従って操作すれば、操作者の経験の如何を問わず、誤りのない操作をすばやく確実に行なうことが可能となるのみならず、写真露光装置の表示部は1箇所に限定され、順次操作順に従って表示するので、操作者は多数の表示部を見る繁雑さの故に表示部の一部を見落としたり、表示部を見る順序を誤まったりすることがなく、容易に操作することができる」顕著な作用効果を奏する。しかるに、上記〈1〉及び〈2〉において述べた判断遺脱及び認定判断の誤りの結果、審決は、「第1引用例及び第2引用例の存在並びに周知技術を勘案すると当業者が格別困難なく想到しえたものと認められる。そして、本願発明の構成による効果は当業者が容易に予測しえた域を超えるものではない。」と誤って判断したものであり、違法として、取り消されるべきである。

第3  請求の原因に対する認否及び主張

1(1)  請求の原因1ないし3は認め、同4の主張は争う。

審決の認定及び判断は正当であって、審決には原告が主張するような誤りはない。

(2)  被告の主張

〈1〉 取消事由1について

原告主張の特徴2は、露光条件が予め定められた露光条件と異ならない場合、その旨が一つの表示部に表示されないというだけのものであり、このようなことは表示手段としてきわめて自明の事項であって(入力した条件が予め設定された条件と異ならず一致しているような場合、その旨の表示が行なわれないことは周知である点は第1引用例及び乙第1号証により、明らかである。)、審決においても、表示手段における当然の事項として、その相違点の認定及び判断において織り込み済みの事項である。

審決は、本願発明と「写真露光装置において従来周知の事項」との一致点を、その露光条件が所要とする露光条件と異なっていないかどうかを「確認」し、さらに、それらが一致した場合は露光可能と「確認」する等は「写真露光装置において従来周知の事項」であると認定した上で、その相違点を、本願発明はそのような「確認」事項を表示部に表示すること、表示内容を順序ごとに一つの表示部に表示することに特徴を有するものと認定し、この相違点につき、公知ないし周知技術を挙げてその進歩性の判断をしているのである。

すなわち、審決が相違点として、「確認」事項を表示部に表示すること、表示内容を順序ごとに一つの表示部に表示することと認定したその表示手段のなかには、特徴2、つまり、露光条件が予め定められた露光条件と異ならない場合、その旨の表示をしないという表示手段における自明の事項が、当然のこととして含まれているのである。

したがって、この点について、審決の認定及び判断に誤りはない。

〈2〉 取消事由2について

(a) 審決が周知技術として例示した、現金自動支払機等にみられるように、いわゆる対話型表示装置等の表示手段において、一連の操作内容等を表示順に、一つの表示部に表示させることは極めて当たり前の事項であるところ、審決は現金自動支払機を周知技術として引用することによって、かかる技術が周知であると認定しているものである(一連の操作内容等を表示順に一つの表示部に表示させることが周知である点は、甲第7号証の1、2、乙第1、第2号証により明らかである。)。そして「さらに、また、多数の表示内容を一つの表示部に表示させることも周知技術(例えば、デジタル腕時計等)である。」と認定することによって、本願発明の「一つの表示部」という構成が、必ずしも同一画面の同一部分に表示するという限定的な意味に解されるものではないが仮に、そのようなものであっても、そのような多数の表示内容を同一画面の同一部分に表示させるという表示手段は、例えば、デジタル腕時計等の表示手段において、本願出願前から周知であることを念のため示したにすぎない。

審決は、上記の周知技術の存在を前提として、本願発明の進歩性を判断したものであるから、審決の認定及び判断に誤りはない。

〈3〉 取消事由3について

原告の主張する作用効果(なお、「すばやく」との作用効果は明細書には記載されていない。)は、写真露光装置そのものの直接の作用効果ではなく、写真露光装置の操作手順として現金自動支払機などの対話型表示装置におけるありふれた表示手段を採用したことに基づく作用効果にすぎないものである。

また、本願発明の「一つの表示部」が写真露光装置の表示部が一箇所(同一画面の同一部分)に限定される意味とは解されないが、仮にそのようなものであっても、そのような表示手段もまた周知である。

したがって、「本願発明の構成による効果は当業者が容易に予測しえた域を超えるものではない。」とした審決の認定及び判断に誤りはない。

第4  証拠関係

証拠関係は本件記録中の書証目録の記載を引用する(書証の成立についてはすべて当事者間に争いがない。)。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願発明の要旨)及び3(審決の理由の要点)は、当事者間に争いはない。

2  原告主張の審決の取消事由について検討する。

(1)  取消事由1について

〈1〉  前記本願発明の要旨によれば、本願発明の「前記ペーパーマスクの種類とネガマスクの種類とに基づいて予め定められた各種露光条件設定用の露光調節部材の種類、装着位置を、該写真露光装置に既に装填されている露光調節部材の種類、装着位置と異なる場合と露光調節部材が装填されていない場合のみ所定の順に前記表示部に表示せしめ、該写真露光装置に既に装填されているか、または装填された露光調節部材の種類、装着位置と前記定められた露光調節部材の種類、装着位置とがすべて一致した場合は、前記表示部に露光可能という表示をせしめ」との構成は、「予め定められた各種露光条件設定用の露光調節部材の種類、装着位置を、該写真露光装置に既に装填されている露光調節部材の種類、装着位置と異なる場合と露光調節部材が装填されていない場合には所定の順に一箇所の表示部に表示せしめる」(特徴1)が、「予め定められた各種露光条件設定用の露光調節部材の種類、装着位置が、該写真露光装置に既に装填されている又は装填された露光調節部材の種類、装着位置と異ならない場合には、予め定められた各種露光条件設定用の露光調節部材の種類、装着位置が、表示部に表示されない」(特徴2)との二面の特徴を有すると認められる。

しかして、審決が認定した写真露光装置の構成において、(a)ペーパーマスクの装填の有無、装填されているペーパーマスクの種類、ネガマスクの装填の有無、装填されているネガマスクの種類をそれぞれ「確認」し、(b)所要とするペーパーマスクとネガマスクとが装填されておらず別のものが装填されているときには、別のものを取り外して、所要とするペーパーマスクとネガマスクの装填を行ない、(c)所要とするペーパーマスクの種類とネガマスクの種類とに基づいて各種露光条件設定用の露光調節部材の種類とその装着位置とが定まる関係にあることから、ペーパーマスクの種類とネガマスクの種類に応じた露光調節部材の種類・装着位置を、写真露光調節装置に既に装填されている露光調節部材の種類・装着位置と異なっていないかどうかを「確認」し、(d)また露光調節部材が装填されていないことはないかを「確認」し、(e)さらに装着された露光調節部材の種類・装着位置が所要とするペーパーマスクの種類とネガマスクの種類とから定まる露光調節部材の種類・装着位置と一致した場合は露光可能と「確認」する等の手順をとることが周知であることは当事者間に争いがない。

そして、本願発明の「前記ペーパーマスクの種類とネガマスクの種類とに基づいて予め定められた各種露光条件設定用の露光調節部材の種類、装着位置を、該写真露光装置に既に装填されている露光調節部材の種類、装着位置と異なる場合と露光調節部材が装填されていない場合のみ所定の順に前記表示部に表示せしめ、該写真露光装置に既に装填されているか、または装填された露光調節部材の種類、装着位置と前記定められた露光調節部材の種類、装着位置とがすべて一致した場合は、前記表示部に露光可能という表示をせしめ」との構成に対応する前記「写真露光装置における従来周知の事項」の構成は上記(c)ないし(e)であると認められるところ、本願発明の「予め定められた各種露光条件設定用の露光調節部材の種類、装着位置が、該写真露光装置に既に装填されている又は装填された露光調節部材の種類、装着位置と異ならない場合には、予め定められた各種露光条件設定用の露光調節部材の種類、装着位置が、表示部に表示されない」(特徴2)との構成は、上記(c)ないし(e)の構成には含まれていない。

そうすると、本願発明は、上記特徴2の点において、審決が認定した前記「写真露光装置における従来周知の事項」の構成とは相違するものというべきである。

しかるに、審決は、本願発明と「写真露光装置における従来周知の事項」とを対比して、「本願発明は、上記『写真露光装置における従来周知の事項』における『確認』事項を表示部に表示すること、表示内容を順序ごとに一つの表示部で表示すること、ペーパーマスクとネガマスクの装填の有無およびペーパーマスクの種類とネガマスクの種類とを検出、判定すること、所要とするペーパーマスクが装填されているか、または装填された場合と、所要とするネガマスクが装填されているかまたは装填された場合とにスキップスイッチを作動させることに特徴を有する」(甲第2号証4頁17行ないし5頁6行)旨、本願発明と「写真露光装置における従来周知の事項」との相違点を挙げるに止まっているのであるから、審決は、上記特徴2の点を相違点として明示することなく、直接の判断をしなかったものといわざるを得ない。

〈2〉  ところで、甲第5号証の3(特開昭55-50255号公報、昭和55年4月11日公開、第1引用例)には、本体1の上面に設けられた操作部4に、各種表示器、例えば、「複写可」表示灯9、「紙づまり」表示灯10、「複写用紙なし」表示灯11、「トナーなし」表示灯12等が設けられた複写機が記載されており、その表示器に関する「エラー処理(第21図)はエラー(異常状態)A、Bが発生したときはモータ54を回転させたまま11秒まち各部を切り、エラーCが発生したときに、ただちにモータ54が停止…、『紙づまり』表示灯10が点灯する。」(6頁右上欄9行ないし15行)、「また、第23図に示すように用紙Pが無い場合には、『複写用紙なし』表示灯11を点灯させ、カセット28の再挿てんを待つ。…。カセット28の再挿てんにより『複写用紙なし』表示灯11を消灯するとともに『複写可』表示灯9を点灯させることになる。」(6頁右上欄16行ないし左下欄3行)、「このように、『複写可』表示灯9を電源投入時より複写可能状態となるまで消灯し、複写可能状態となると点灯し、このとき複写ボタン6が押されると消灯し、次に原稿台スイッチ89がオンとなり複写可能状態となると点灯するようにしたので、…」(6頁左下欄4行ないし9行)との記載及び第16図の制御部のプロック図、第17ないし23図のフローチャートによると、同引用例のこれらの表示器による表示は、何も異常状態がなければ、異常状態を表示する表示灯は点灯することなく、「複写可」表示灯が点灯し、何らかの異常状態がある場合のみ、該当する表示灯が点灯するようになっていることが認められる。

また、甲第7号証の2(特開昭53-40592号公報)には、銀行等で用いられ、現金の預金、払戻を行なう自動取扱機の操作盤の発明が記載されており、その操作盤には、操作手順を指示する矢印の指示部15a…15k、計数金額を表示する発光ダイオード式数字表示器24、文章記憶装置に記憶している特殊な文章をプラズマディスプレイによりカナ文字で表示することができる表示部22とランプの点灯により浮出る隠し文字23の4つの可変指示部が設けられているが、その表示部22に関する、「文章記憶装置29は文字発生器30を介して表示部22に接続され、表示部に上記文章記憶装置29に記憶している特殊な文章をプラズマディスプレイによりカナ文字で表示するようになっている。…そして、上記文章記憶装置29に記憶されている文章は第1表で示すように主として通常操作時におけるトラブルや操作過程を預出金者に表示するためのものと、第2表で示すように銀行から預出金者向に相手により選択して表示するサービスメッセージ類の文章を表示するものとがあり、…」(2頁左下欄7行ないし末行)、「預金する場合には…。取引選択が完了すると、指示部15eが点灯し、預金しようとする銀行券を現金預金口10から投入する。このとき一度に沢山の銀行券を投入した場合には図示しない厚み検査器が作動して指示部15kが点灯するとともに表示部22に『オサツ ノ マイスウ ヲ スクナクシテ イレナオシテ クダサイ』という文章が表示される。」(3頁左上欄13行ないし右上欄4行)、「払戻し時には、常時点灯している指示部15aにもとづいて、個人識別カードを挿入する。つぎに指示部15bが点灯するため取引選択釦17の『払戻し』を押す。取引選択が完了すると、指示部15c、15dが点灯し、…」(3頁左下欄3行ないし7行)、「預金時および払戻し時に、個人識別カードが損傷して読取不能であったり、偽造カードであると、図示しない読取装置がこれを検出し、…とともに文字記憶装置29に信号を送り、この中に記憶されている特殊文字の中から1文章たとえば『コノカード ハ ゴシヨウ ニ ナレマセン』を表示し、預出金者に個人識別カードに関して窓口へ問い合わせするように指示することになる。」(3頁右下欄4行ないし14行)との記載によると、同号証に記載された表示部22は所定以上の銀行券を一度に投入したとか、個人識別カードが損傷して読取不能であるとかの所定のトラブルがある場合のみ、その旨の表示がなされるようになっていることが認められる。

さらに、乙第1号証(特開昭51-57146号公報)には、カードを用いて、例えば、預金の支払い、又は預入れ等を行なう自動取引機における暗証番号のキーイン表示方式の発明が記載されており、その異常表示に関する、「上記番号照合回路(12)の出力側には警報発生器(15)を介してマイク(16)に接続されていて、上記番号照合回路(12)において、認証番号と暗証番号とが一致したとき正常音を、一致しなかったとき異常音を発してキーインの正否が顧客に知らされるとともに間違っている場合にはたとえば『暗証番号が間違っています』の異常表示が操作案内表示部(2)(符号12は誤記)に表示される。」(2頁右上欄13行ないし左下欄1行)、「なお、本考案の一実施例は認証番号と暗証番号との一致がとれたとき正常音を、一致がとれなかったとき異常音を発するようにしたがこれに限定されるものではなく、一致がとれなかったときのみ音を発するようにしてもよい。」(3頁左上欄4行ないし8行)との記載によると、同号証には、認証番号と暗証番号とが一致しない場合のみ、その異常を知らせる警告方法ないし表示方法が記載されているものと認められる。

以上によれば、操作に応答して適正・不適正や正常・異常等を表示する場合、不適正状態や異常状態等が発生しないときには、その旨を表示しない表示の仕方は、現金自動取扱機、複写機等に見られるいわゆる対話型表示装置において、本願出願前ごく普通の表示方法であるものと認められる。

しかして、審決は、相違点の判断において、「写真露光装置(複写機)を露光可能とするに足る構成部材(複写用紙、トナー、原稿台、カセット等)の装填の有無や適正な位置を検出・判定し、装填の有無等や露光可能を表示することは、例えば、当審の拒絶理由に引用した特開昭55-50255号公報(以下、第1引用例という。)記載の如く公知技術であること」(甲第1号証 5頁7行ないし13行)と認定しているところ、前記のとおり、第1引用例には、表示器による表示として、何も異常状態がなければ、異常状態を表示する表示灯は点灯することなく、「複写可」表示灯が点灯し、何らかの異常状態がある場合のみ、該当する表示灯が点灯するようにしたものが記載され、この点は前記のとおり周知技術というべきであったのであるから、上記「写真露光装置(複写機)を露光可能とするに足る構成部材(複写用紙、トナー、原稿台、カセット等)の装填の有無や適正な位置を検出・判定し、装填の有無等や露光可能を表示する装填の有無等や露光可能を表示する」と認定した公知技術には、写真露光装置における露光調節部材の装填の有無等や露光可能を表示する表示方法において、何も異常状態がなければ、異常状態を表示する表示灯は点灯することなく、「露光可能」表示灯が点灯し、何らかの異常状態がある場合のみ、該当する表示灯が点灯する表示方法も含まれるものと解される。さらに、審決は、本願発明の「写真露光装置における従来周知の事項」との相違点となる構成は、「第1引用例及び第2引用例の存在並びに周知技術を勘案すると当業者が格別困難なく想到しえたもの」(甲第1号証7頁4行ないし6行)と判断したものであるから、写真露光装置における露光調節部材の装填の有無等や露光可能を表示する表示方法において、何も異常状態がなければ、異常状態を表示する表示灯は点灯することなく、「露光可能」表示灯が点灯し、何らかの異常状態がある場合のみ、該当する表示灯が点灯する表示方法を採用することも含め、当業者が格別困難なく想到しえたものと実質において判断したものと解される。

そして、前記のとおり、操作に応答して適正・不適正や正常・異常等を表示する場合、不適正状態や異常状態等が発生しないときには、その旨を表示しない表示の仕方は、現金自動取扱機、複写機等に見られるいわゆる対話型表示装置において、本願出願前ごく普通の表示方法であるのであるから、かかる表示方法を「写真露光装置における従来周知の事項」に適用して、本願発明の特徴2に係る構成となすことは、当業者が格別困難なく想到しえることは明らかであるから、審決のこの点についての判断に誤りはない。

したがって、審決において上記相違点を明示することく、直接の判断をしなかったことは、結局のところ、結論に影響を及ぼすものでないと認められるから、取消事由1は採用できない。

(2)  取消事由2について

原告は、一般的に多数の表示内容を一つの表示部に表示させることは周知技術であっても、本願発明のように、一連の操作内容等を表示順に一箇所の表示部に表示させることは、周知とはいえないから、審決は、周知技術の認定を誤った結果、本願発明の進歩性についての判断を誤ったと主張する。

〈1〉  甲第2号証(本願の願書に最初に添付された明細書及び図面)、同第3号証(昭和62年8月28日付け意見書に代える手続補正書)、同第4号証(昭和63年3月12日付け手続補正書)(以下、総称して「本願明細書」という。)の特許請求の範囲の記載、及び、発明の詳細な説明の項の、「写真露光装置においては多数の調節すべき露光調節部材が存在するので、多数の表示部を必要とし、操作者が表示部の一部を見落としたり、表示部を見る順を誤まる」(甲第2号証3頁6行ないし9行)、「操作者はこの表示に従って操作すれば、操作者の経験の如何を問わず、誤りのない操作を確実に行なうことが可能となるのみならず、写真露光装置の表示部は1箇所に限定され、順次操作順に従って表示するので、操作者は多数の表示部を見る繁雑さの故に表示部の一部を見落としたり、表示部を見る順序を誤まったりすることがなく、容易に操作することができる。」(甲第2号証12頁7行ないし15行)との記載を合わせみれば、本願発明の要旨における「一つの表示部」は一箇所の表示部を意味するものと解される。

〈2〉  ところで、甲第7号証の1(特開昭53-41959号公報)には、不特定多数の人が利用する自動取引装置の操作方法を、利用者に教示するために用いられる誘導表示装置が記載されており、その操作と誘導表示について、図面とともに、「第一図は自動取引装置の外観略図である。…、8は誘導表示、…。利用者は最初に5にカードをそう入する。次に自分の暗証番号を9により入力する。カード内容と9の入力内容が一致したとき以降の取引が可能となる。利用者は自分の取引内容を9により入力しその内容に応じた操作を以降に行なう。…。これらの一連の操作方法は8に表示され、利用者はその表示内容に応じた操作をすれば良い。」(1頁右下欄13行ないし2頁左上欄9行)と記載されていることから、上記の誘導表示装置は、取引内容に応じた一連の操作方法が1箇所の表示部(誘導表示8)に順次操作順に従って表示されるようになっていることが認められる。

また、前記乙第1号証には、「以下本発明の一実施例を第1図乃至第3図にもとづいて説明する。…この操作パネル(1)には操作案内表示部(2)、…配設されている。なお、上記操作案内表示部(2)には第2図に示されるような操作手順が順次表示されるようになっている。」(2頁左上欄7行ないし14行)と記載されていることから、同号証に記載された発明は、預金の支払い又は預入れ等のための一連の操作手順が1箇所の表示部である操作案内表示部(2)に表示順に表示されるようになっていることが認められる。

さらに、乙第2号証(特開昭50-93195号公報)には、ユニットに表示される操作手順の指示文書に従って通常顧客自身が使用するように企図された遠隔現金払出ユニットと、出納手順援助機操作係によって操作される出納手順援助ユニットを備えた自動銀行業務処理装置が記載されており、その遠隔ユニット及び援助ユニットにそれぞれ設けられ、操作手順を表示するビデオ表示装置(ビデオ表示盤)に関して、「遠隔ユニット2は、…好ましくは慣用のプラスチック製磁気コード化カード18(第7図及び8図)を挿入するための挿入スロット17と、所望の銀行取引を行うためにデータをいれるためのキーボード15と、選択した銀行取引操作を行うにあたり顧客を指導するための説明文言を表示する表示盤14とを有する…一般的な形式の自動現金払出機であってよい。」(6頁左上欄5行ないし16行)、「ユニット2は、特定の選定された取引の操作を行うのに取るべき手順について顧客に教示するために、前述の従来型の装置において使用されている背面光サインではなく、指示文言等のビデオ表示盤14を設けた点において従来の装置とは異なる。」(6頁左下欄7行ないし12行)、「表示すべき各文言は、ハウジング24内に収納されたコンピュータ内に貯蔵することができる。…そのような文言は、実施すべき特定の銀行取引のプログラミングに従って定められた順序でビデオ表示盤14に表示される。コンピュータは、ビデオ表示盤14に表示すべき文言の順序制御装置の文字発生器へ入力を供給するようにプログラムされる。…。ビデオ表示盤14に表示される代表的な文言が第9図に示されている。顧客がコード化カード18をスロット17に挿入したとき表示される文言は第10図に示されている。カード18の正当性及び第10図の指示文言に従ってキーボードに入れた顧客が欲する取引に関する個人認識番号の正当性についてユニット2のコンピュータによって照査された後表示される文言は第11図に示されている。」(6頁左下欄13行ないし右下欄17行)、「第11図の文言は、第12図のように改変され、出納手順の援助が得られることを示す。顧客は、出納手順の援助を得たいときは、キーボード15の『肯』ボタンを押す。それによって顧客の名前を含む第13図の文言がビデオ表示盤14に現れる。」(7頁左上欄2行ないし7行)、「リレーK4が付勢されると、…、援助機のビデオ表示盤6を遠隔ユニット2のビデオ制御装置28に連結し、常態においては顧客のためにビデオ表示盤14に表示されるようにプログラムされている文言が援助ユニット1の操作係のためにビデオ表示盤6に表示されるようにする。…、出納手順援助機操作係が顧客から援助の要請を受けた後スイッチ25-2(第8図)を作動させることによってスイッチ25を閉成すると、4つのリレーK1、K2、K3及びK4のすべてを付勢する回路が設定される。その結果、…、常態においてはビデオ制御装置28から遠隔装置2に顧客に対して表示するようにプログラムされている文言をビデオ表示盤6に援助機操作係のために表示させる。かくして、出納手順援助機操作係は、顧客の所望する援助について質問することができ、オーディオ連結を通して顧客から得る情報に基づいてビデオ表示盤6に表示される指示に従って銀行取引操作を行うことができる。」(8頁左下欄5行ないし右下欄19行)、「第13図の文言は、顧客が出納手順の教示を求めた後、そして操作係の映像がビデオ表示盤14に現れる前に表示される。…、それによってビデオ表示盤6に表示されている文言を第12図に示されている文言に戻す。顧客は、操作係との対話を通して、…所望の取引を知らせることができる。」(9頁左上欄13行ないし右上欄2行)、「そうすると、第14図に示された文言がビデオ表示盤6に表示され、次いで操作係は、…金額を入れる。…。金額が正しくキーボードに入れたとすれば、操作係は、キーボード9の『肯』キーを押す。すると、第15図の文言がビデオ表示盤6に表示される。…。顧客がカード18と受取証とを受取ったとき第16図の文言が操作係に対してビデオ表示盤6に表示され、…。このようにして、顧客の現金引出手続が完了される」(9頁右上欄4行ないし左下欄8行)、「第9-16図は、第2図のビデオ表示装置に、そして援助ユニットの操作係が顧客に援助を与えている場合は第1図の出納手順援助ユニットのビデオ表示装置にも表示される一連の典型的な指示文言を示す。」(11頁右上欄4行ないし8行)と記載されていることから、上記自動銀行業務処理装置の遠隔ユニット及び出納手順援助ユニットのいずれにおいても、銀行取引のための一連の操作手順は、一箇所の表示部である各ビデオ表示装置(ビデオ表示盤)に順次表示されるようになっていることが認められる。

以上によれば、一連の操作内容を表示順に一箇所の表示部に表示させることは、操作手順を文言で表示する対話型表示装置において、本願出願前周知であったことが認められる。

〈3〉  したがって、本願発明の「『確認』事項を表示順に一つの表示部に表示させ」る構成を採用することは、当業者が格別困難なく想到し得たものと認められ、取消事由2は理由がない。

(3)  取消事由3について

原告は、本願発明は、「操作者はこの表示に従って操作すれば、操作者の経験の如何を問わず、誤りのない操作をすばやく確実に行なうことが可能となるのみならず、写真露光装置の表示部は1箇所に限定され、順次操作順に従って表示するので、操作者は多数の表示部を見る繁雑さの故に表示部の一部を見落としたり、表示部を見る順序を誤まったりすることがなく、容易に操作することができる。」作用効果を奏すると主張する。

しかしながら、操作に応答した適正・不適正や正常・異常等を表示する場合、不適正状態や異常状態が発生しないときは、その旨を表示しないようにすれば、すべての状態を逐次表示する場合に比べて、操作の迅速化に有利であることは自明のことである(なお、本願明細書の発明の詳細な説明の項には、本願発明の作用効果として、操作を「すばやく」行なうとの記載はないが、かかる効果は上記構成から予測される自明の効果であるから、記載はなくとも、本願発明は、かかる効果を奏するものと認められる。)

また、一連の操作内容等を表示順に一つの表示部に表示させれば、多数箇所に表示部を設けた場合に比べて、操作内容等を確認する上での繁雑さが軽減され、操作が容易になることは自明のことである。

したがって、原告が主張する本願発明の作用効果は、本願発明の構成から当然予測できるものにすぎず、前記(1)及び(2)で判示したとおり、本願発明の構成を採択すること自体に格別の困難性が認められない以上、原告主張の本願発明の作用効果をもって格別のものとはいえないと認められる。したがって、取消事由3は理由がない。

3  以上のとおり、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、審決に取り消すべき違法はない。

よって、原告の本訴請求は失当として棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 押切瞳)

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